心配していたレンタカーデートは、想像以上に楽しい時間だった。
5歳年下の彼はやっぱり穏やかで、一緒にいるだけで仕事のプレッシャーも婚活のプレッシャーも、すっと消えていくようだった。
「次はどこに行きましょうか?」
帰り際、どちらからともなく自然な流れで次のデートの約束まで交わした。
これまでのマネーモンスターたちをなぎ倒し、週末の「無給の接客業」に疲れ果てていた私にとって、彼はまさに砂漠で見つけた本物のオアシスだった。
「あぁ、この人となら、ついに本交際(真剣交際)に進めるかもしれないな」
そんな、久しぶりの温かい余韻に浸っていた、まさにその矢先だった。
私のスマホに、例のアドバイザーからの着信画面が光った。
いつもならシステム内のメッセージで済むはずの連絡。わざわざ電話がかかってくるということは、ろくな内容ではない。嫌な予感で胸がざわついた。
「……もしもし」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、相変わらず冷静な、しかしどこか言いにくそうなアドバイザーの声だった。
「〇〇さん、先方から仮交際終了の連絡が入りました」
頭が真っ白になった。
一瞬、自分が聞き間違えたのかと思った。
「えっ……? なんでですか? この前のデートもすごく楽しくて、次の約束もちゃんとしたんですよ!?」
取り乱して食い下がる私に、アドバイザーはため息混じりに、しかしはっきりとその「理由」を告げた。
「実は〇〇さん、この週末に遠路はるばる実家に帰省されていたそうなんです。そこでご家族にお付き合いの報告をされたところ、お母様から猛反対を受けてしまって……」
脳内に、カチリとパズルのピースがハマるような嫌な音が響いた。
そういえばデートの時、彼は「今週末、遠路はるばる実家に帰省するんです」と少し嬉しそうに話していた。
当時の私は「親孝行な人だな」なんて暢気に微笑ましく思っていたけれど、とんだ勘違いだった。彼が遠路はるばる実家に帰ったのは、本交際を見据えて、事前に母親を「説得」するためだったのだ。
彼は彼なりに、真剣に私との未来を考えて行動してくれていた。
だけど、その説得は見事に大失敗に終わった。
反対された理由はただ一つ。私が彼より「5歳年上」だから。
「お母様に反対されて、彼はそれを覆すことができなかったようです……」と、アドバイザーは言った。
完全な盲点だった。
40代での妊活や出産を見据え、自分の年齢のことは自分が一番よく分かっている。だからこそ、1分1秒を惜しんで、ボロボロになりながら打席に立ち続けてきた。年齢という現実を受け入れた上で、彼も進んでくれたと思っていたのに。
最後の最後で立ちはだかったのは、本人同士の意思ではどうしようもない「親ブロック」という、高くて冷たい壁。そして、親の言葉一つでこちらの手をあっさり離してしまう、彼の幼さだった。
怒りよりも、ただただ底知れない無力感と、深い疲労感が一気に押し寄せてきた。
せっかく見つけたオアシスは、幻のように一瞬で消え去った。
私はただ、がっくりと肩を落とし、暗い部屋の中で立ち尽くすしかなかった――。
(第10話へ続く)

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