新幹線での遠征婚活を続け、財布も心もすり減っていたある日のこと。
お世話になっている結婚相談所のアドバイザーから連絡があった。
また何かお見合いの手続きか、はたまたお断りの事務連絡か。そう身構えて出た電話だったが、スマホの向こうのアドバイザーは完全にキャパオーバーといった様子で、なぜか私に「ちょっと聞いてくださいよ……」と愚痴をこぼし始めたのだ。
その内容が、想像を絶するほど生々しい「相談所の裏事情」だった。
「実は今、規約違反でペナルティ退会処分になる会員様が、同時に2人も出てしまいまして……」
理由を聞いて、思わず耳を疑った。
なんと、成婚退会(正式な婚約)の前に、お相手と「体の関係」を持ってしまったのだという。
多くの結婚相談所では、婚前交渉は絶対のタブー。それが発覚した時点で「成婚」とみなされ、強制退会となる上に、高額な違約金(いわゆる罰金)が容赦なく科せられる。
「罰金こわっ!! 何やねんそれ……!」
スマホを耳に当てたまま、私は心の中で猛烈にツッコミを入れていた。
毎週末、数万円の新幹線代を出すのすらヒーヒー言っている私の横で、ルール違反のペナルティとして何十万もの大金をドブに捨てている人が同時に2人もいるなんて。婚活界のマネーゲーム、次元が違いすぎる。
ただ、ひとりの大人としての私の本音を言えば、こうも思う。
「お互い社会人の大人なんだし、そういう雰囲気になることくらい、別に良いんじゃない……?」
もちろん、トラブル防止のためのルールなのだから仕方がない。
だけど、恋愛のプロセスとしてお互いの意思で進んだのだとしたら、そこまで厳しく取り締まられるのもなんだか不思議な世界だな、と思ってしまうのだ。
(とはいえ、ルールはルール。破れば大損するだけなのだが……)
そして、それ以上に私の脳内を占領したのは、ある「最大の謎」だった。
「てか、それ一体どこからバレるのだろう……?」
だってそうでしょう。
体の関係を持ったことが相談所に露見すれば、男側にとっても女側にとっても、高額な罰金と強制退会という大ダメージが待っている。
双方にとってデメリットしかない秘密なのだ。墓場まで持っていくのがお互いのためのはず。
それなのに、なぜ運営に情報が漏れるのか。
事後にどちらかが激しい罪悪感に駆られて自白したのか。それとも「あわよくば、これで責任を取らせて成婚に持ち込もう」というドロドロとした駆け引きのチクリなのか……。
新幹線の窓の外より不透明な、男と女の裏側のミステリー。
その闇の深さにゾッとしつつ、「私は真面目に新幹線代を払って、後ろ指さされながらお見合いしよう……」と、妙なところで深く胸に誓う私なのであった。
(第12話へ続く)

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